情報処理技術者試験 高度試験対策の記録を記します。このページでは情報処理技術者試験の午前I対策を記します。
試験概要
出題内容
午前I試験は試験科目を問わず、高度試験受験者に課せられる共通の試験です。テクノロジー, マネジメント, ストラテジの3つの分野から出題されます。2023年春の出題数は以下の通りで、毎年、出題数の変動はほぼありません。
分野 | 出題数 |
---|---|
テクノロジー | 17 |
マネジメント | 3 |
ストラテジ | 10 |
この試験は午後I, 午後IIの採点コストを下げる意味合いが強い足切り試験です。ですので、ちゃんと対策をすれば確実に合格できるような出題になっています。
午前Iは、応用情報技術者試験の午前問題から出題されます。おおよそ過去3年分 計6回分の試験問題を目を通せば試験問題の100%を網羅できます。なお、100点満点中60点合格の試験ですので、おおよそ80%の問題が正答できるようになれば十分に合格安全圏です。無理に100%を正答できるようになる必要はありません。
午前免除制度
高度試験の午前Iは免除制度があります。以下の条件を満たすと、今後2年間の午前I試験が免除されます。
- 応用情報技術者試験(AP)に合格
- 情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験のいずれかに合格
- 情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績をとる
出題形式
あまり一般的な分類ではないですが、午前I試験の学習コストを見積りやすくするため、出題形式を以下3つに分類します。
- 理解を必要とする問題
- 暗記を必要とする問題
- 新技術・新制度
理解を必要とする問題
情報処理技術者試験のほとんどの出題形式が理解を必要とする問題です。実は午後I試験は丸暗記要素はそれほど多くありません。「暗記量が多くて苦しい」と感じている人は、理解すべき問題を無理に暗記で乗り切ろうとしている可能性があります。以下、理解を必要とする問題を紹介します。
2023年(令和5年) 春期 問16
3台の装置X~Zを接続したシステムA,Bの稼働率に関する記述のうち,適切なものはどれか。ここで,3台の装置の稼働率は,いずれも0より大きく1より小さいものとし,並列に接続されている部分は,どちらか一方が稼働していればよいものとする。ア. 各装置の稼働率の値によって,AとBの稼働率のどちらが高いかは変化する。
イ. 常にAとBの稼働率は等しい。
ウ. 常にAの稼働率はBより高い。
エ. 常にBの稼働率はAより高い。
このような計算問題は解き方さえ理解してしまえば暗記要素はほとんどないでしょう。また、このような理解要素が強い問題は、一度理解してしまえば記憶から抜け落ちづらい傾向があります。もう1問、理解を必要とする問題を紹介します。
2023年(令和5年) 春期 問19
ハッシュ表の理論的な探索時間を示すグラフはどれか。ここで,複数のデータが同じハッシュ値になることはないものとする。
これは計算を必要としない出題ですが、ハッシュがどのようなデータ構造であるかを理解していれば正答を選べる問題です。このような問題も丸暗記ではなく理解で乗り切るようにしましょう。
暗記を必要とする問題
午前I試験は暗記要素も必要とする試験です。専門分野で日常的に使用する分野ならば記憶に残り続けているかもしれませんが、使用頻度の低い分野は記憶から抜け落ちているかもしれません。直近の私の場合ならば本業はSaaS製品の動作確認が多いため、テクノロジー分野は殆ど覚えていますがプロジェクトマネジメントや法務のような使用頻度の低い分野は殆ど忘れています。
以下、暗記を必要とする問題を紹介します。
2023年(令和5年) 春期 問65
情報システムの調達の際に作成されるRFIの説明はどれか。ア. 調達者から供給者候補に対して,システム化の目的や業務内容などを示し,必要な情報の提供を依頼すること
イ. 調達者から供給者候補に対して,対象システムや調達条件などを示し,提案書の提出を依頼すること
ウ. 調達者から供給者に対して,契約内容で取り決めた内容に関して,変更を要請すること
エ. 調達者から供給者に対して,双方の役割分担などを確認し,契約の締結を要請すること
RFIを書いた経験がない人ならば、RFIが何かを暗記してなければ正答を選べない問題です。ですが、RFIがRequest For Informationの略である事を知っていれば、正答を選ぶ事ができます。このように情報処理業界はアルファベットの略称が多いので、略す前の言葉を知っていれば「何となく」で十分答えを選ぶ事ができます。また、試験会場で初見の問題に遭遇したとしても、「このアルファベットの略称は何かな」と考える事で意外と初見正答できる事もあります。
もう1問、暗記を必要とする問題を紹介します。
2023年(令和5年) 春期 問54
予測手法の一つであるデルファイ法の説明はどれか。ア. 現状の指標の中に将来の動向を示す指標があることに着目して予測する。
イ. 将来予測のためのモデル化した連立方程式を解いて予測する。
ウ. 同時点における複数の観測データの統計比較分析によって将来を予測する。
エ. 複数の専門家へのアンケートの繰返しによる回答の収束によって将来を予測する。
デルファイ(デルフィ遺跡)という名前は、古代ギリシャのアポロンの神話地とされるデルファイにちなんで付けられたもので、神のお告げがある場所としての意味もあります。このような語源から、あるテーマに対して複数の専門家へのアンケートの繰返しによる回答の収束によって将来を予測する手法を「デルファイ法」と呼んでいます。
このような設問は語源まで調べるようにすれば記憶に残りやすいです。ですが、語源を調べるのはやや学習コストが高くなるので、丸暗記で乗り切っても良いと思います。
新技術・新制度
新技術・新制度が出題される事があります。「新」とは言っても、すべて応用情報の過去問から出題されますので、対策をして覚えるようにすれば試験会場で正答できます。以下、新技術の問題を紹介します。
2023年(令和5年) 春期 問41
TPM(Trusted Platform Module)に該当するものはどれか。ア. PCなどの機器に搭載され,鍵生成,ハッシュ演算及び暗号処理を行うセキュリティチップ
イ. 受信した電子メールが正当な送信者から送信されたものであることを保証する送信ドメイン認証技術
ウ. ファイアウォール,侵入検知,マルウェア対策など,複数のセキュリティ機能を統合したネットワーク監視装置
エ. ログデータを一元的に管理し,セキュリティイベントの監視者への通知及び相関分析を行うシステム
「新」に関する分野はテクノロジーだけではありません。法令や政府施策からの出題はあります。以下、政府の新子作の問題を紹介します。
2021年(令和3年) 春期 問72
政府は,IoTを始めとする様々なICTが最大限に活用され,サイバー空間とフィジカル空間とが融合された”超スマート社会”の実現を推進してきた。必要なものやサービスが人々に過不足なく提供され,年齢や性別などの違いにかかわらず,誰もが快適に生活することができるとされる”超スマート社会”実現への取組は何と呼ばれているか。ア. e-Gov
イ. Society5.0
ウ. Web2.0
エ. ダイバーシティ社会
学習コスト
一定水準以上の場合
午前問題のうち「理解を必要とする問題」を丸暗記に頼らず理解している人ならば、それほど多くの学習コストはかかりません。また、暗記問題も日常的に業務で使用する分野は忘れづらいので、暗記問題すべてを復習する必要はないはずです。
ですので、以下に該当するような人ならば、それほどの学習期間を要さずに午前Iを突破できます。
- 大学や専門学校で情報処理を専攻した人
- 大学や専門学校で情報処理専攻ではないものの、理系一般教養として情報処理を習得した人
- 丸暗記に頼らずに応用情報技術者試験を突破した人
このような人ならば、午前I対策は1週間もかからないでしょう。あまり誉められたような話ではないですが、私は炎上プロジェクト参画中に受験した情報処理技術者試験では、一夜漬けで午前Iを突破した事もあります。
このように、一定水準以上の人から見れば、午前Iは非常に簡単な試験です。
本腰を入れた対策が必要になる場合
「理解を必要とする問題」を丸暗記で乗り切ってしまった人は、午前I対策としてそれなりの学習コストが必要である事を計画に含めてください。
もし、午前I対策に20時間以上かかるようならば、基礎力不足の可能性を疑ってください。「リストやハッシュなどのデータ構造の理解」「ダイクストラ法やクイックソートなどの基本的なアルゴリズム」「データベース、セキュリティ、ネットワークなどの用語」は、情報処理技術者としての一般教養です。説明が簡単なので(コミュニケーションコストが少ないので)、私はこの辺りをちゃんと理解している人に仕事を振りたいと思っています。
もし、情報処理業界に長く勤める予定ならば、この辺りの理解は「後回し」にしないで今すぐ習得した方が成長の近道と考えます。
最低学習コストで合格しなければならない場合
理想は情報処理の基礎力を身につけて午前Iを突破する事ですが、状況によっては十分な学習コストをかけられない状況もあるかもしれません。例えば、炎上プロジェクト参画中で勉強の時間が確保できなかったり、上長から最短合格のプレッシャーをかけられていたりすう事もあるかもしれません。
そのような場合は午前I免除狙いでの受験がおすすめです。例えば、2024年秋季のプロジェクトマネージャーの合格を目指すならば、2023年春季に何らかの高度試験を受験します。春季で午前Iのみに合格し午前II以降は途中退出します。
もし、春季の午前Iで合格点に達していれば秋季は午前Iが免除されます。このようにする事で、秋季試験の短期記憶をすべてプロジェクトマネージャー対策に充てる事ができます。
問題解説
共通午前Iは受験者数も多いため、設問の解説は情報豊富です。市販書籍にも載っていますし、解説サイトも数多く存在します。例えば、「応用情報技術者試験ドットコム」は全問解説付きで紹介されています。