情報処理技術者試験 プロジェクトマネージャー試験 午後II対策の記録を記します。
論文の採点基準
採点基準の情報収集
試験対策を始める前に「どのような論文を書けば高評価になるのか」の採点基準の情報収集をしましょう。
情報処理推進機構(IPA)の公式サイトでは具体的な採点基準は公開されていませんが、市販参考書を購入すれば、どのような採点基準なのかの確度高い情報が手に入ります。私自身、システムアーキテクト, プロジェクトマネージャー, サービスマネージャーの3回の論文試験を受験しましたが、1回目は採点基準そのものを勘違いしていたため不合格になっています。兎にも角にも、採点基準が分からなければ合格は難しいでしょう。「自分から見た良い論文」と「情報処理推進機構(IPA)が良いと判定している論文」に差があれば、不合格になってしまいます。
採点基準は「受かる!プロジェクトマネージャー」や「合格論文の書き方・事例集」などから情報収集をすると良いでしょう。
採点者のバックグランド
高度試験の論文を採点するのは、40代から50代のSIer勤務者や大学教授と言われています。そのため、最新技術やWeb系ハイトランザクションなどは採点者のイメージが湧きづらいので、比較的不利なテーマ選びになります。もし、SIもWebも両方経験している人ならばSIの事例を取り上げた方が有利になります。また、他にネタが思いつかない場合を除き、極端に新しい技術をテーマにした論述は避けた方が無難です。
もし、比較的新しい技術をテーマに論じざるを得ない場合は、説明を省略しないようにすれば十分に合格水準に達する事ができます。例えば、CI/CDについて言及するならば、以下のような書き方があります。
事業会社A社CEOは、急激な市場変化に対応するため数多くの施策を試せる環境を要請した。私はその要請に応えるためには、テスト時間と商用への配置時間を短縮する必要があると考えた。なぜならば、現状のテストと配置時間は1件あたり12時間を要しており、十分な改善の余地があるからだ。私はこの考えを実行に移すため、自動的にテストをし自動的に商用環境にコードを配置する仕組み(以下「CI/CD」と略す)の導入を計画した。
採点者の疲労状態
プロジェクトマネージャーの試験対策をした事がない人から見て、上記のCI/CDの説明の例はどのように感じるでしょうか。短く言えば「デプロイ回数を増やしたいのでCI/CDを導入した」であり、かなり回りくどい言い方になっています。ですが、情報処理推進機構(IPA)の論文試験の場合、これくらい回りくどい言い方が高得点になります。
というのは、採点者は日頃は本業の業務をやっています。業務終了後に論文を採点するので、かなり疲れ切った状態で採点をします。当然、読み落としはあるでしょう。大事な事は2回3回言うくらいの丁寧な論文にした方が望ましいです。短い言葉で濃厚過ぎる論文は、採点者が消化不良を起こすリスクがあります。
第三者による採点
論文の練習をいくらやっても、自分の論文が合格水準に達しているかどうかは判断が難しいものがあります。そのような時は、第三者による採点サービスを利用すると良いでしょう。例えば、「ITEC」は11,000円で論文2回の採点と添削してくれます。
題意に沿った論述
「題意に沿った論述」を心がけてください。情報処理技術者試験の講師の情報によると、題意に沿っていないため不合格になる事例が多いそうです。また、出題者の題意は読み取れたとしても「ネタが思いつかないため論点をすり替える」は確実に不合格になるのでやめておきましょう。いくら採点者が疲れている状態だったとしても、論点のすり替えは100%バレます。
ダメ!ゼッタイ!法令違反!
日本の情報処理業界は大きな声では言えないですが、大小様々な法令違反が黙認されている事はあります。私は某巨大SIerから検証機材の自腹購入を強制された事がありますが、ここまで明らかに分かるような法令違反に限らず、無意識でよく見られる法令違反にも十分に注意しなければなりません。以下、うっかり事実を語ったら不合格になる事例を紹介します。
一発で不合格になるキーワードは法令違反だけではありません。詳しくは「受かる!プロジェクトマネージャー」の付録を参照ください。「致命度」という言い方で、論文で絶対に書いてはいけない事項が説明されています。
例1: 自宅学習強制
2000年(平成12年)の出題を例に挙げて説明します。設問は以下の通りです。
問2 チームリーダの養成について
システム開発プロジェクトは、通常、複数のチームから編成され、チームリーダの働きがプロジェクトの成否を左右する
しかし、技術、管理、人間的資質のすべての面で優れたチームリーダを確保することは一般的には困難で、技術は強いが管理の経験が浅いメンバをチームリーダに任命せざるを得ない事が少なくない。そうした場合には、プロジェクトマネージャは、日々のプロジェクト運営の中で、そのチームリーダを計画的、意図的に指導することが重要である。
そのためには、チームの役割やチームリーダの実績などを見極め、重点的に伸ばすべき能力やその方法をチームリーダと共通に認識することが大切である。また、実際の業務を遂行していく中では、状況の把握方法、問題解決方法、報告の仕方などの具体的指導が必要である。
あなたの経験に基づいて、設問ア〜ウに従って論述せよ設問ア あたなが携わったプロジェクトの概要と、チームリーダの養成を図ろうとしたチームの特徴を特徴を、800字以内で述べよ。
設問イ 設問アで述べたチームにおいて、特に伸ばそうとしたチームリーダの能力は何か。また、その能力の養成に関してどのような施策を実施したか。実務を通して工夫した点を中心に具体的に述べよ
設問ウ あなたが実施したチームリーダ養成策をどのように評価しているか。また、今後改善したいと考えている点は何か。それぞれ簡潔に述べよ。
プロジェクトマネージャー試験定番の出題である教育に関する設問です。現実の多くの場合は「勉強しろ」とのプレッシャーをかけて業務後学習や自宅学習を強制するような事が多いですが、これは法令違反です。学習コストはプロジェクト費用から支払わなければならず、業務時間内に勉強させなければなりません。
私は「お金をもらって勉強できる」という環境は殆ど見た事がないですが、法令上は業務時間内にお賃金が発生している状態で勉強させなければなりません。
例2: コンフリクトマネジメント 強制
2012年(平成24年)の出題を例に挙げて説明します。設問は以下の通りです。
問2 システム開発プロジェクトにおける利害の調整について
プロジェクトマネージャ(PM)には、システム開発プロジェクトの遂行中に発生する様々な問題を解決し、プロジェクト目標を達成することが求められる。問題によってはプロジェクト関係は(以下、関係者という)の間で利害が対立し、その調整をしながら問題を解決しなければならない場合がある。
利害の調整が必要になる問題として、例えば、次のようなものがある。
・利用部門間の利害の対立によって意思決定が遅れる
・PMと利用部門の利害の対立によって利用部門からの参加メンバが決まらない
・プロジェクト内のチーム間の利害によって作業分担が決まらない
利害の対立がある場合、関係者が納得する解決策を見いだすのは容易ではない。しかし、PMは利害の対立の背景を把握した上で、関係者が何を望み、何を避けたいと思っているかなどについて十分に理解し、関係者が納得するように利害を調整しながら解決策を見出さなければならばならない。その際、関係者の本音を引き出すために個別に相談したり、事前に複数の解決策を用意するなど、様々な工夫をすることも重要である。
あなたの経験に基づいて、設問ア〜ウに従って論述せよ設問ア あたなが携わったシステム開発プロジェクトにおける、プロジェクトとしての特徴、利害の調整が必要になった問題とその際の関係者について、800字以内で述べよ
設問イ 設問アで述べた問題に関する関係者のそれぞれの利害は何か。また、どのように利害の調整をして問題を解決したかについて、ふくうしたことを含め、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
設問ウ 設問イで述べた利害の調整に対する評価、利害の調整を行った際に認識した課題、今後の改善点について、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
プロジェクトマネージャー試験定番の出題であるコンフリクトマネジメントに関する設問です。実際のプロジェクトでは、組織力学に基づくパワーバランスで立場の強い部門が「強制」で、立場の弱い部門が「服従」になる事はよく見られます。酷い場合は、立場の強さを利用した違法や契約違反やゴリ押しの場合もあるでしょう。
ですが、これはプロジェクトマネージャー試験では不合格です。誰かが一方的に不幸になるような解決策は、実際のプロジェクトでは多く見られますが、プロジェクトマネージャー試験では許されません。
論文ネタ収集
情報処理推進機構(IPA)の論文試験は、おそらく実務経験のみに頼った論文で合格するのは非常に難しいと思います。というのは、プロジェクトマネージャー試験ならば、「プロジェクト計画の作成」「要員管理」「リスク」「進捗」「予算」「品質」「調達」などの幅広い分野から出題されます。これら全てを実務経験に基づいて論じる事ができるのは、新卒時代からずっとプロジェクトマネジメント業務のみを専任にし続けたベテランエンジニアだけでしょう。世の中には、そのような経験を積んでいる人の方が少数派です。
ですので、様々なプロジェクト事例を研究し、(実際に自分が経験していないプロジェクトを)自分の言葉でプロジェクトを語れるようになる事が重要です。以下、プロジェクト事例の収集方法を述べます。
午後I試験
午後I試験をプロジェクト事例として研究すると良いでしょう。ただし、試験問題本文で書かれている内容のみではやや情報不足になりますので、想像力を膨らませて、やや具体化の肉付けが必要になります。
市販書籍
「受かる!プロジェクトマネージャー」「合格論文の書き方・事例集」には数多くの論文が掲載されています。全てのプロジェクト事例について自分の言葉で語るのは難しいと思いますので、イメージが湧きやすいプロジェクトについて自分の言葉で語れるようになると良いでしょう。
実務経験 もしもストーリー
実務経験をそのまま語ってしまうとネタ不足であったり法令違反になってしまう事もありますが、実務経験を元にプロジェクトマネージャー試験に合格できるような架空の事例を作る事もできます。以下、事例作成例を挙げます。
例1 : 裁量を与えられないプロジェクトマネージャーの場合
プロジェクトマネージャーはプロジェクトに対して全ての責任を負う立場です。進捗と品質のバランスはプロジェクトマネージャー自身が決定する必要があります。というのが理想論ですが、実際には決定権はないものの責任だけ負わされるプロジェクトマネージャーの立場の人も居ると思います。このような場合、自身の経験を正直に書くと「プロジェクトマネージャーとしての責務を全うしてない。責任放棄している」との採点結果で不合格になります。
午後IIの採点講評をみると「プロジェクトマネージャーとしての責務を果たさず責任放棄しているような答案が多く見られた」という記述が見当たります
このような場合は「もし私に全裁量が与えられていたならば、どのように行動していただろうか」という もしもストーリーを考えて論文ネタを事前に作っておくと良いでしょう。
例2 : 横暴なプロジェクトマネージャーから指示を受ける立場の場合
プロジェクトマネージャー試験は、実際にプロジェクトマネージャーをやっていない人でも実務から情報収集できます。例えば、プロジェクトマネージャーが仕事を増やすような管理手法を採用したため、プロジェクトが大炎上したとします。このような場合は「もし私がプロジェクトマネージャーの立場だったら、どのように行動していただろうか」と考える事で、もしもストーリーを事前に考えて論文ネタを作ります。
例3 : 政治制約で変な意思決定がなされてしまった場合
大規模プロジェクトでは、政治的な圧力による誰もが理解しがたい意思決定がなされる事が多くあります。このような事例を正直に書けば、採点者に「意味不明なやつ。意思決定の理由が分からない」との評価を受けるでしょう。このような場合は「もし政治的な制約がなかったら、自分はどのように行動していただろうか」という もしもストーリーを考えます。
ちなみに私は「政治制約で変な意思決定がなされてしまった場合」のもしもストーリーで、2022年秋のプロジェクトマネージャー試験に合格しています。
論文作成演習
Wordによる論文演習
試験本番では手書きの論文を作成する必要がありますが、手書き論文をたくさん練習するのは非常に疲れます。ですので、適宜、Wordによる練習を併用すると良いでしょう。Wordを使用する場合は、以下のような方眼紙のテンプレートを使うと良いでしょう。このようなテンプレートを使用すると、何文字書いたかが一目瞭然です。
手書きによる練習
実際に手書きで論文を書いてみると「思ったよりも早く字が書けない」と感じるかもしれません。字を書くスピードは人によって異なりますが、字数上限である3,600字を制限時間内に書き切れる人は殆ど居ません。自分がどの程度の字数をかけるかを把握し、字数に収まるネタを考える練習をする必要があります。私の場合は、2,800字程度に収めるネタを考えるようにしています。
練習に使用する方眼紙は「受かる!プロジェクトマネージャー(みよっちゃん本)」の付録から、本番試験そっくりの方眼紙をダウンロードする事ができます。もし、印字代などを気にするようならば、以下のように方眼ノートを購入して論文練習をするのもアリです。
時間がない時は…
論文を実際に書く練習が望ましいのは言うまでもありませんが、勉強時間は有限です。「合格水準の論文は書けるようになったけど論文ネタ収集が不十分だ」という時は、どんな内容を書くかの箇条書きメモでも有用なイメージトレーニングになります。
受験テクニック
時短テクニック
設問Aの前半は「プロジェクトの概要と背景」についての論述が求められます。「プロジェクトの背景」は論文の趣旨にそった背景を説明する必要があるので定型文化はできないですが、「プロジェクトの概要」は定型文化する事ができます。もし、実際にネタとして使うプロジェクトが5つあるならば、その5つ「プロジェクト概要」の説明を丸暗記してしまう事で素早く論文を書く事ができます。
また、「プロジェクト概要」は必ず出題されると分かっていますので、論文採点者に過不足なく伝わりやすい日本語を事前に考える事もできます。以下は、私がプロジェクトマネージャー試験前に丸暗記したプロジェクト事例のひとつです。
私はSI企業A社に勤めるプロジェクトマネージャーである。この度、事業会社B社向けインフラ更改案件を請け負った。
事業会社B社は3〜5年に1度の頻度で大規模なシステム更改をする。この度、2020年稼働開始の情報系システム群の更改を予定し、「配達分析システム更改など」大小30のプロジェクトを立ち上げた。そのプロジェクトの1つがインフラ更改である。
漢字の書き取り
ひらがなで書くよりも漢字で書いた方が採点者から見て好印象です。ですが、漢字を選ぶ事は出来ても書く事ができない受験者は多いでしょう。もし、漢字をど忘れしてしまった時は言い換えを検討します。例えば、「繁忙期」という漢字を忘れてしまったら「ピーク期」などの言い換えを考えます。
また、言い換えよりも漢字で書ける方が望ましいので、論文を手書きで練習した時に「ど忘れしてしまった漢字」はメモに残すようにしましょう。午後II試験開始前の休憩時間に2,3回書き取りすれば、論文を漢字で書く事ができるでしょう。
以下は私が実際に試験直前に書き取り練習をした一覧です。
- プロジェクトを「推進」する
- ウイルスの「感染」拡大防止
- 顧客満足を向上させる「施策」を実施した
- 自律的なコミュニケーションを「阻害」する
- 受け入れ時に不満が多発する「懸念」があった
- プロジェクトスコープが変わる事を「警戒」し
- 経理部門の協力が「不可欠」であった
- プロジェクトのコミュニケーション基本原則を「実践」する
- 「瑕疵」担保責任
- プロジェクトは「成功」した
- 過去プロジェクトで欠陥が多発したという「経緯」もあり
- 受け入れ部門のスキルに「依存」する
- 評価方法は「任意」とする
- 「喫茶店」で休憩する
- プロジェクト要員を「交代」する
- 「石窯」でパンを焼く