情報処理技術者試験 プロジェクトマネージャー試験 午後I対策の記録を記します。
試験概要の意義
午後I試験対策をする意義は以下2つです。
- 論文対策のネタ探し
- 午後I突破のための受験テクニックを身につける
論文対策のネタ探し
プロジェクトマネージャー試験を突破するには、ある程度のプロジェクト事例を知っている必要があります。仮に敏腕のプロジェクトマネージャーだったとしても、実務経験を積んでいない分野が午後IIで出題されるケースはありえるでしょう。このようなリスクを軽減するのが、午後I対策です。午後I試験は多くの事例収集になりますので、
- 午後Iで出題された事例をそのまま流用する
- 午後I出題と自身の経験を足して2で割ったような事例を論じる
のような手法で論文試験を乗り切る事ができます。
また、午後Iは採点者から見た模範プロジェクトのような事例ですので、情報処理推進機構(IPA)が好むプロジェクトマネジメント手法を探る事ができます。重要なのは「採点者から見た」好事例プロジェクトという事です。実際にうまくいった管理手法であっても、採点者が嫌うような管理手法だったら不合格になります。
例えば、午後I試験では「バグ率が低いのはテスト不十分の可能性がある」という事例が出題されています。ですが、現実には「バグ率が低いのはテスト不十分だ」とPMに詰められた結果、開発者がワザとバグを仕込むようになったというのはよく見聞きする話です。このように、実際は品質低下を招くようなプロジェクト管理手法でも、情報処理技術者試験では高評価になる事は多々あります。採点者の好みを把握するのは大事です。
午後I突破のための受験テクニックを身につける
ずば抜けた読解力を持っている人ならばノー勉で午後Iを突破できるかもしれないですが、多くの人は午後I試験の合格水準に達するには「短時間でプロジェクト事例を読み込む」「出題意図に沿った答案作成」などの練習が必要になるでしょう。
私の読解能力は、大学入試センターや理系旧帝大の読解ならば十分に対応できる程度です。この程度の読解力の持ち主の場合はノー勉で午後Iを確実に突破するのは難しいと思います(初見の正答率が60%程度)。なお、文化系の知人から聞いた話では、理系旧帝大と言ってもそれほど難解な文章ではなく文化系の中堅(中央大や明治大など)程度の難度だそうです。
午後IIの試験対策を焦るために午後Iの事例収集に走ってしまうと、午後Iの練習材料がなくなってしまう事に注意が必要です。午後Iは「初見で」「短時間で」「出題者好みの答案を作る」練習が必要になりますので、練習できる回数は有限です。
午後I試験対策
概要
午後I対策は翔泳社が出版している「受かる」シリーズを参照ください。プロジェクトマネージャーの場合は、三好康之さんが執筆している「受かる!プロジェクトマネージャー」です。一部では「みよっちゃん本」とも言われています。
このサイトでは「みよっちゃん本」を使って、どのような対策が出来るかを紹介します。なお、売上低下につながるため、「みよっちゃん本」に書かれている具体的な内容は伏せさせてください。
マーキング術
短時間で午後Iの設問を読み込むには、短時間でどこに何が書いてあるかを把握しなければなりません。おそらく、設問を2週読んでいる時間はないと思います。
どこに何が書いてあるかを短期記憶に詰め込むのは非常に難しいので、下線やマークを使って、どこに何が書いてあるかの記号を付与します。以下は、私が実際に2022年秋に受験した時のマーキングです。「みよっちゃん本」に書かれている内容に加えて、自分なりのアレンジを加えたマーキングです。
出題意図の把握
午後I試験では、「どこに何が書かれていて」「出題者はどのような意図で」「正答を設定したのか」の把握が必要になります。公開されている情報の範囲では、「採点講評」が唯一の情報源です。
ですが、「採点講評」では全ての出題についての言及がなく、「なぜこれが正解になるのか」が理解できない状況もしばしば発生します。ここで役に立つのが「みよっちゃん本」です。「みよっちゃん本」は本書に加え、以下スクリーンショットの付録が充実しており、2002年(平成14年)以降の解説を入手する事ができます。
演習方法
過去問を演習する時は必ず試験問題を印刷してください。これはマーキングの演習をするためです。また、解答はテキストエディタではなく手書きで作成してください。これは手書きで制限字数内に収める練習をするためです。プロジェクトマネージャー試験の場合は、「みよっちゃん本」の付録から解答用紙をダウンロードできるので、これも利用すると良いでしょう。
まずは、制限時間を意識せず得点を少しでも挙げる練習をしましょう。すぐに模範解答を見てはダメです。実際に試験問題をやってみると、解答がAかBかの2択で迷う事があります。このような状況に陥った時に、少しでも正答率を上げるために考えて考え抜きましょう。すぐに模範解答を見る事は推奨しません。そして、解答を見た時にどのようにすれば正答率が上がるかを自問します。
制限時間の意識
午後I試験は、90分で3問中2問するスピード勝負の試験です。試験日が近づいてきたら、スピードを意識した練習もやってみましょう。ペース配分は人それぞれですが、私の場合は以下のような作戦です。
- 開始5分で全3問の概要を把握しどの2問を解答するかを決める
- 1問あたり15分で設問を読み込む
- 1問あたり20分をかけて解答を作り込む
- 設問を読み始めて15分以内の時点で、自分が選択した問題が相性が悪いと思ったら、解答する問題を変更する
試験対策本によく書かれていますが、少しでも正答率をあげるための「解答作り込み」の時間は十分に確保するようにしてください。午後I不合格者パターンとして、読解に時間がかかり過ぎて「解答作り込み」に時間をかけられないパターンが多いようです。
なお、前述の通り「すぐに解答を見る」のは推奨していませんので、スピードを意識した練習は少数回で良いと思います。私自身、スピードを意識した問題演習は2回しかやっていません。
出題形式
概要
午後Iの設問は、以下4つの出題形式があります。
- 解答抜粋型 (文章の中から答えを引用する問題)
- 解答加工型 (文章の説明を加工して解答する問題)
- 知識解答型 (受験者の知識や経験に基づいて解答する問題)
- 計算問題
解答抜粋型
2020年(令和2年)の問1を例に挙げて解答抜粋型を説明します。プロジェクトの状況は以下の通りです。
G社は、これまで、規模の拡大に応じて向上の設備を増設してきたが、生産プロセスの最適化までは手が回らず、生産コスト増加の原因となっている。そこで、中期経営計画の中で、今期をデジタルトランスフォーメーション(DX)推進元年と位置付け、DX推進による生産コスト削減に取り組むこととした。全社のDX推進の責任者として、H取締役がCDO(Chief Digital Officer)に選任されている。
役員会での協議を経て、工場の生産プロセスDXを今期の最優先案件とすることを決定し、戦略投資として一定の予算枠がCDOに任されることとなった。<中略>
[K課長の提案]K課長は、L工場の状況のヒアリング結果からCDOにDX検討チームの状況を報告した上で、次の提案をおこなった。
①プロジェクト憲章の作成
・自動化プロジェクトのスコープにDX検討チームの作業を加え、最適化の案の検討の段階からプロジェクトを立ち上げる。
・自動化プロジェクトのプロジェクト憲章を早急に作成し、CDOから全社に向けて発表する
・プロジェクト憲章には、プロジェクトの背景と目的、達成する目標、戦略のスケジュール、利用可能な資源、PM及びプロジェクトチームの構成と果たすべき役割を明記する。
・特に、プロジェクトの背景には、ある重要な決定事項を明記する。
設問は以下の通りです。
K課長が、プロジェクトの背景に明記することを提案した、ある重要な決定事項とは何か。35字以内で述べよ。
この出題が「解答抜粋型」と呼ばれるパターンで、問題文をほぼ引用し語尾などを整えるだけで正答になるパターンです。問題文中に「工場の生産プロセスDXを今季の最優先案件とすること」と書かれていますので、この文章を使います。模範回答は以下の通りです。
役員会で工場の生産プロセスDXを今期の最優先案件としたこと (29字)
私が初見で作成した解答は以下の通りです。
役員会にてDX推進による生産コスト削減が今期の最優先案件と定められた事 (35字)
解答抜粋型か解答加工型かの判断を迷い、解答加工型と判断してやや分かりやすい説明に改変しています。このように微妙な判断を出題者好みに合わせていく積み重ねが得点アップにつながります。
解答加工型
2020年(令和2年)の問1を例に挙げて解答加工型を説明します。プロジェクトの状況は以下の通りです。
[L工場の状況のヒアリング]
<中略>
次にM主任に話を聞いた。その内容は次のようなものであった。
・DX検討チームのメンバは、現業部門を兼務している。工場長からは現業をおそろかにしなようにとの注意があり、限られた時間の中で活動している。
・DX検討システムを利用してデータを収集し、そのデータの分析・評価を行う方法の説明をベンダから受けているが、DX検討チームのメンバはITの活用に慣れていないので、習得するのに時間が掛かっている。その結果、データを分析し、評価して、コスト削減効果の高い生産プロセスの最適化の案を検討する段階に進むことができず、進捗が遅れている。<中略>
[K課長の提案]K課長は、L工場の状況のヒアリング結果からCDOにDX検討チームの状況を報告した上で、次の提案をおこなった。
①プロジェクト憲章の作成
<中略>
②プロジェクトチームの編成
・CDOの直下にK課長を専任のPMとするプロジェクトチームを設置する。
・IT統括部からメンバを選任する。
・DX検討チームのメンバは、現業部門との業務を解き、専任とする。
・L工場のITSからもメンバを選任する。
・N工場からもメンバを選任する。
設問は以下の通りです。
K課長が、DX検討チームのメンバを専任とすることを提案した狙いは何か。35字以内で述べよ。
問題文を抜き出して解答を作る事はできませんが、DX検討チームは現業との兼務のため十分な時間が確保できず遅延していると書かれています。この状況を35文字でまとめた模範回答は以下のようになります。
メンバが最適化の案を検討する時間を確保できるようにするため (29字)
みよっちゃん本によると、「メンバ」「最適化の案を検討する」あたりのキーワードが入っている方が望ましいとの判断です。
私が初見で作成した解答は以下の通りです。
DXチームが多くの時間を生産プロセス最適化に割り当てるようにする狙い (35字)
出題者が求めていると推定されるキーワードが入っているかどうかは、自己採点の時に注意してチェックしましょう。私が初見で作成した答案はキーワードが入っていないため満点になるか減点扱いになるかは不明ですが、少しでも出題者好みに近づける工夫をした方が合格の可能性があがります。
知識解答型
2020年(令和2年)の問1を例に挙げて知識解答型を説明します。プロジェクトの状況は以下の通りです。
[K課長の提案]
K課長は、L工場の状況のヒアリング結果からCDOにDX検討チームの状況を報告した上で、次の提案をおこなった。
[L工場の状況のヒアリング]
①プロジェクト憲章の作成
・自動化プロジェクトのスコープにDX検討チームの作業を加え、最適化の案の検討の段階からプロジェクトを立ち上げる。
・自動化プロジェクトのプロジェクト憲章を早急に作成し、CDOから全社に向けて発表する。
・プロジェクト憲章には、プロジェクトの背景と目的、達成する目標、戦略のスケジュール、利用可能な資源、PM及びプロジェクトチームの構成と果たすべき役割を明記する。
・特に、プロジェクトの背景には、ある重要な決定事項を明記する。<中略>
次に、K課長はL工場のITS部長を訪問し、次の状況を確認した。
・ITSは、従来の運用・保守に加えて、最近では小規模なシステム開発も担当範囲となる、業務負荷は高い。
・工場のシステムは製品の生産に直結しているものが多く、システムに異常が発生した場合には、自分たちで迅速に復旧できる技術を身につけておく必要がある。
・システム開発は優先順位を付けて実施しており、全社的な重要案件は優先して対応することにしている。
・DX検討チームの活動については、ITSとして依頼を受けておらず、こちらでは状況は分からない。
設問は以下の通りです。
K課長が、CDOから全社に向けて、自動化プロジェクトのプロジェクト憲章を発表することを提案した狙いは何か。30字以内で述べよ。
この出題は問題文中にヒントすら書かれていないパターンです。一般論として「なぜプロジェクト憲章を作成する必要があるのか」を解答する問題です。
このように知識を求めるような出題もありますが、PMBOKを隅から隅まで理解したりプロジェクトマネジメント本を片っ端から読み漁るような過度の勉強をしなくても十分に合格できます。このような知識問題は、午前II, 午後I, 午後IIなどの過去問をみると繰り返し出題されている事項であり、過去問を一定以上やり込めば自然に知識が貯まります。
プロジェクト憲章は全社周知によって協力体制を築く目的で作成します。模範回答は以下の通りです。
プロジェクトの承認を全社に伝え協力体制を確立するため (26字)
私が初見で作成した解答は以下の通りです。
正式な依頼がなく動きづらい状況をプロジェクトの周知で改善する (30字)
出題者は知識解答型のつもりで出題していましたが私は解答加工型の可能性も考慮し、「全社的な重要案件は優先して対応することにしている」「ITSとして依頼を受けておらず」あたりのニュアンスを含めて答案にしました。ですが、「解答加工型の可能性も考慮し」は考え過ぎでした。午後I試験は「考え過ぎ」による減点はよくあります。どこまで深く考えれば良いかは、過去問を数多く演習し、出題者好みに近づけるようにしましょう。
正答率の把握
午後I試験は、3問のうち2問を選択する必要があります。まれに著しく正答率が低く「この問題を選んだ瞬間に不合格ほぼ確定」という事もあります。また、自分の苦手分野を選択してしまったため、不合格になってしまう事もあるかもしれません。
このような事態を避けるために、自分の得意分野と苦手分野を把握すると良いでしょう。私は以下のようなExcelを用いて初見の正答率を記録するようにしていした。
私の場合は、以下のような判断基準で問題を選択するようにしています。
- 計算問題が設問あるならば、必ず選択する
- 苦手分野の「品質管理」は選択しない
このように自分なりの対策を立てると良いでしょう。